昨今、注目を集めているDX(デジタルトランスフォーメーション)ですが、「 DX銘柄 」と呼ばれている企業があるのはご存知でしょうか。
これは、DXに取り組んでいる企業が全て銘柄とつけて呼ばれるわけではなく、経済産業省と東京証券取引所が選定し、選ばれた企業のみが「 DX銘柄 」とされています。
先進的な世界の企業ではDXが当たり前のものになっていますが、日本では経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」から各企業のDX促進が本格的に始まっています。
DXに銘柄とつくことにより、企業としての外部評価も上がることになるでしょう。
今回の記事では、「 DX銘柄について 」を中心に、選出されるポイントなども解説していきます。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは
まずは、DX(デジタルトランスフォーメーション)について理解を深めておきましょう。
DXの始まりは、2004年にスウェーデンの大学教授が提唱したところまでさかのぼります。
日本でDXが注目されるようになったのは最近ですが、実際には、かなり前から始まっている取り組みになります。
単なるデジタル化ではない
一般的にDXと聞くと多くの人が「 デジタル化のこと 」と認識しています。
しかし、デジタル化だけではDXとは言わず、あくまでDXの一部ということになります。
DXはデジタル技術やテクノロジーを駆使する必要があるため、「 デジタル化 」自体は間違いではありませんが、あくまでDXを促進するためにデジタル化が必要と考えましょう。
現場の業務や事務にデジタル技術を導入することで、DXの一歩を踏み出すことになります。
関連記事:DXとはなにか?からIT化やデジタル化の違いまで解説
DXが注目される理由
DXが日本でも注目される要因となったのが、2018年に経済産業省が発表した「 DXレポート 」です。
レポートのサブタイトルには「 2025年の崖 」という言葉が入っていますが、このままでは「 IT人材の不足・古いシステム 」によって経済損失が生まれるといった内容です。
DX銘柄は、先進的な企業を選出し、モデルとすることで、日本企業のさらなるDXの加速を促進していくための取り組みとなっています。
DX銘柄とは
表題のDX銘柄について解説していきます。
DX銘柄の主な要点は2つです。
①経済産業省と東京証券取引所が選定している
DX銘柄はDXを促進している、「 経済産業省 」と株式の売買を行う「 東京証券取引所 」の2つが合同でDX銘柄の選定を進めています。
アメリカなどはDXを積極的に促進している企業が多いため、世界的に見ても先を進んでいます。
しかし、日本企業の多くはDXを促進していなかったり、促進していてもデジタル化のみにとどまるなど、世界から遅れていると言えるでしょう。
経済産業省のレポートに出てくる「 2025年の崖 」を回避することは日本経済を悪化させないためにも必須と言われています。
日本全体でDXを促進し、DXの知名度を上げるためにDX銘柄の選出が行われています。
②国内の上場企業が選考対象
DX銘柄は日本の企業であれば参加できるというわけではなく、国内上場企業のみが対象になっています。
2020年度では、「 一部・二部・マザーズ・JASDAQ 」に上場していた約3,700社が対象でした。
しかし、上場している全ての企業がエントリーになるわけではありません。
経済産業省が実施している「 デジタルトランスフォーメーション調査 」に回答した企業がエントリーという形になっています。
2020年度は3700社のうち535社がエントリーし、選考の対象となっています。
DX銘柄に選定されるためには、東京証券取引所への株式上場が必須になると覚えておきましょう。
関連記事:DXの市場規模や注目される業種
DX銘柄の選考で重視されるポイント
続いてDX銘柄の選考で重視されるポイントを解説していきます。
エントリー出来る企業自体が上場企業のみと少なくはなりますが、上場企業であればエントリーの資格を得ていることになります。
2015年から2019年まではDX銘柄ではなく、「 攻めのIT経営銘柄 」と題しており、2020年からは「 DX銘柄 」と改め、今回解説する3項目が重視されるポイントに加わった形になっています。
①ビジネスの変革
まずはDXの最終目標である、「 ビジネスの変革 」です。
DXはデジタル化やテクノロジーを駆使して、社内だけではなく、業界にも変革を起こしていくことが重要です。
社内のシステムを改善し、業務内容を効率化しただけではDXに成功したとは言えず、業界に今までになかったものやサービスを生み出してこそDXを成功させたと言えるでしょう。
DXを促進していく中で、一番重要視されるのが「 ビジネスの変革 」なので、DX銘柄の選定にも重視されるポイントになります。
②戦略的な取り組み
1つをデジタル化して単発で終わるようなものではなく、あくまで先を見据えた「 戦略的 」という部分が重要なポイントになります。
冒頭でも少し触れましたが、DXはデジタル化をしても完了するものではなく、計画的に段階を踏んで進めていくものになります。
デジタル化はDXの第一歩で、必ず必要になるものですが、DXの全てではありません。
例えば、業務にデジタル技術を導入しただけでは戦略的とは言えず、単発的なものと判断されるでしょう。
経営戦略として、企業としての組織や人材、業種を変革させるだけの取り組みをしているかが重要になります。
計画的に自社の古い部分を刷新し、現状のシステムの維持ではなく、新しいシステムに投資や管理が出来ているかも選考のポイントになってきます。
③経営者のリーダーシップ
DXは経営者が率先して取り組む場合と、従業員が率先して取り組んでいく場合があります。
DXの促進率を考えれば前者の「 経営者が率先する 」ということが重要になります。
企業の中には従業員が中心となってDXを促進していることもありますが、費用のかかる面が多くなるため、従業員では必要経費の採決ができないでしょう。
結果として、上長や経営者に稟議書を提出しながらになるため、スムーズなDX促進とはいきません。
一方、経営者であれば、必要な経費をある程度、稟議なしに進めることが出来るため、DXの促進は経営者がリーダーシップを発揮して進めることが前提条件になってきます。
3次選考まで行われる
DX銘柄の選定は全部で3次選考まで行われることになり、エントリーには東京証券取引所「 一部・二部・マザーズ・JASDAQ 」に上場している企業が対象です。
上場企業を対象に「 デジタルトランスフォーメーション調査 」が実施され、エントリーする企業が選出されます。
一次選考では「 デジタルトランスフォーメーション調査 」により企業から提出された内容、3年間の平均ROE(自己資本利益率)をもとに採点されます。
採点方式により、一定以上の企業が選出されることになるでしょう。
一次選考で選出した企業は二次選考と最終選考に進みますが、エントリーしてからは企業側で行うことはありません。
基本的にDX銘柄評価委員会が独自に選考を進めていきます。
「 DX認定 」を受けることが必須
DX銘柄の選出にエントリーされるためには「 DX認定 」を受けることが必須となっています。
DX認定は経済産業省とIPA(独立行政法人 情報処理推進機構)が共同で行っている制度です。
DX銘柄の選出には必須になっており、上場企業でもDX認定を受けていなければDX銘柄に選出されることはありません。
また、DX認定のみに関しては上場企業とは関係なく、全ての事業者(法人・個人)が対象になっています。
上場しておらず、DX銘柄に選出されることはなくても、DX認定を受けることで「 DXを促進している 」ことを公表できるため、十分にメリットがあるでしょう。
上場企業でDX銘柄を目指すのであれば、DX認定の申請は必須です。
2020年のDX銘柄とDX注目企業
2020年度のDX銘柄とDX注目企業を紹介します。
DX銘柄35社
DX銘柄に選出された企業は、選考の中でも上位になるため、スポーツ大会における入賞のようなイメージが分かりやすいでしょう。
DX銘柄に選考された企業の中から、最もDXを促進していた企業としてグランプリが選出されます。
業種の一覧を見ても見て分かる通り、様々な企業が選出されています。
DXは一部の業種だけではなく、様々な業種で注目されていることが分かるでしょう。
出典:https://www.meti.go.jp/press/2020/08/20200825001/20200825001.html
DX注目企業21社
DX銘柄には選出されていないものの、選考での総合評価が高かった企業が「 DX注目企業 」として選出されています。
表を、見ると過去には選出されたことのない企業が多いため、今後のDX銘柄に選出される可能性が高くなる企業と言えるでしょう。
DX注目企業はDX銘柄の一歩手前となるため、次回以降の指針となります。
出典:https://www.meti.go.jp/press/2020/08/20200825001/20200825001.html
2020年DXグランプリに選出された2社
出典:https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/keiei_meigara/keiei_meigara.html
2020年度のDXグランプリには2社選出されています。
特にトラスコ中山は2015年から実施されている、「 DX銘柄(攻めのIT経営銘柄) 」には一度も選出されたことはありません。
DXを促進し始めてから評価されるまでのスピード感もDXには必須と言えるでしょう。
株式会社小松製作所
株式会社小松製作所は過去に3度、DX銘柄に選出されているため、日本企業の中でも早い段階からDXに取り組んでいたことが分かります。
小松製作所は建設機械の生産企業ですが、ICTやIoTといった先進のテクノロジーを上手く取り入れながら業界に変革を起こしています。
有名なのは「 コムトラックス 」という小松製作所が独自に開発したシステムでしょう。
コムトラックスは機械の稼働状況を把握することが可能なため、盗難防止だけではなく、作業効率の悪い機械の洗い出しやメンテナンス時期までも正確に情報化することが出来ます。
IoTを上手く組み合わせた例と言えます。
さらに、小松製作所では明確なロードマップを作成することで、DXを促進しやすくなっていると言えるでしょう。
出典:https://home.komatsu/jp/ir/library/results/03_KomatsuDX.pdf
公式サイト:株式会社小松製作所
トラスコ中山株式会社
トラスコ中山株式会社は2020年に初めてDX銘柄に選出されグランプリになっています。
事業内容は工具や資材の卸売業と自社工具の開発販売です。
DX銘柄に選出された主な要因は「 MROストッカー 」でしょう。
置き薬の工具版と呼ばれているシステムですが、工場や建設会社などに発注率の高い商品をストックしておきます。
発注者は常時必要な商品をあらかじめトラスコを打ち合わせ決定するだけで、在庫の確認や発注作業といった手間がなくなり、棚卸しも簡単になるというものです。
今までになかったシステムのため、DXを促進し、業界に変革を起こしたと言えるでしょう。
公式サイト:トラスコ中山株式会社
DX銘柄に選ばれるメリット
最後にDX銘柄に選ばれるメリットを解説していきます。
知名度の向上
DXの認知度と重要度は年々、高まっているため、DX銘柄に選出されれば知名度の向上が見込まれます。
DX銘柄に選出された企業はホームページに「 DX銘柄に選出された 」ということを記載することが多いため、ホームページを訪れたユーザーには「 先進的な取り組み 」をしていることが分かるようになります。
また、経済産業省やIT関連の企業は、記事としてDX銘柄に選出した企業を発表するため、知名度は確実に向上するでしょう。
例えば、2020年度のグランプリに選出された、「 トラスコ中山 」であれば、元々は限られた業種にしか知名度はありませんでした。
しかし、DX銘柄のグランプリに選出されたことにより、新たな販路の拡大が見込めるはずです。
投資を受けやすくなる
DX銘柄は上場企業から選出されているため、株主といった投資家から注目を集めることになります。
特にDXは先進的な取り組みが多いため、企業としての伸びを期待することが出来ます。
DX銘柄を共同で開催しているのは、東京証券取引所なので、投資家も自然と注目することになるでしょう。
さらに投資家向けに運営されているサイトでも「 DX銘柄に選出された企業 」は紹介されることが多くなります。
結果として、DX銘柄に選出されることは、投資といった面でも受けやすくなると言えるでしょう。
まとめ
今回の記事では、「 DX銘柄 」を中心に解説していきました。
DX銘柄は経済産業省と東京証券取引所が共同で選定しているため、注目されやすく信用度の高いものです。
DX銘柄に選出されるためには、上場企業になることが必要ですが、「 DX認定 」のように個人事業主でも申請可能なものもあります。
上場はすぐに出来ることではないため、上場企業でない場合は、まずDX認定を申請すると良いでしょう。
DX認定でも十分にDXを促進していることを社外にアピールすることが出来ます。
DX銘柄に選出された場合は確実に企業としての知名度が向上します。
DXの最終目標は「 業界に変革を起こす 」なので、DX銘柄に選出されれば、よりビジネスが加速するでしょう。