2020年の新型コロナウイルス感染拡大により、様々な業種が影響を受けています。
非接触やリモートが促進される中で、新たなシステムの導入や事業の転換を考えることも多くなっているでしょう。
特に飲食業界は時短営業の要請などで、思うように売り上げが伸ばせない状況が続いています。
事業再構築補助金は新型コロナウイルスの影響で売り上げが減少した中小企業や中堅企業、個人事業主に向けた国の補助金制度になっています。
飲食業界ではデリバリーやテイクアウトなどへの切替で必要な設備や消耗品が増えているため、事業再構築補助金が有効に活用できるでしょう。
しかし、実際に「 どのような内容に補助金が申請できるのか? 」がはっきり分からない状況ではないでしょうか。
今回は飲食店を主にして事業再構築補助金についてや対象となる経費、申請するメリットを解説していきます。
事業再構築補助金とは?
出典:経済産業省
初めに「 事業再構築補助金 」について解説していきます。
事業再構築補助金は新型コロナの影響で売り上げが減少した中小企業、中堅企業、個人事業主に対して行われる国の施策です。
名前にもなっている通り「 再構築 」がポイントと言えるでしょう。
従来の運営方法では売り上げが下がってしまい、新しい事業展開や変革に必要な経費を補助する制度と考えてもらえれば分かりやすいと思います。
新しい事業を始めるための設備投資が主な補助金の申請内容になってきますが、大きくは事業に関わることになります。
設備だけではなく、広告費なども含まれることから、かなり汎用性の高い補助金の制度と言えるでしょう。
個人事業主の飲食店も申請対象
事業再構築補助金は「 中小企業・中堅企業 」を全面に押し出しているため、個人事業主は対象外のように考えられがちですが、実際には個人事業主も対象となっています。
企業の規模は主に資本金や従業員数で分類されますが、国が定める「 中小企業基本法 」の中には「 個人 」という言葉が入っています。
つまり、個人事業主も中小企業に分類されるため、個人事業主の飲食店も事業再構築補助金に申し込めると言えるでしょう。
ただし、採択の基準に関してはっきりとしていないため、「 個人事業主が採択されやすいか 」 と言われれば現状では不明です。
今後、事業再構築補助金を受ける事業主が増えてくればはっきりとしてきますが、基本的に採択に関しては考えず、必要であれば申し込むという動きで問題ありません。
事業再構築補助金の概要
事業再構築補助金の概要について解説しておきます。
満たさなくてはいけない要件が3つあり、反対に言えば3つの要件を満たせば事業再構築補助金に申し込めることになります。
1.申請前の直近6ヶ月間のうち、任意の3ヶ月間の合計売り上げ高が、コロナ以前の同3ヶ月の合計売上高と比較して10%以上減少している中小企業等。
2.事業計画を認定経営革新等支援機関や金融機関と策定し、一体となって事業再構築に取り組む中小企業等。
3.補助事業終了後3〜5年で付加価値額の年率平均3.0%(一部5.0%)以上増加、又は従業員1人当たり付加価値額の年率平均3.0%(一部5.0%)以上増加の達成。
引用元:経済産業省
少し難しく感じるかもしれませんので要約します。
・例年と比較してコロナ禍で売り上げが10%以上減少した
・事業計画書を作成する
・補助金を使って企業を成長させる
ということになります。
国が発表している応募基準を満たす必要はありますが、要約したポイントをクリア出来るのであれば、事業再構築補助金に申し込める可能性があります。
事業再構築補助金の種類
事業再構築補助金には種類があります。
大きくは通常枠と特別枠に分かれていますが、卒業枠やグローバルV字回復枠というものもあります。
補助額と補助率も合わせて確認していきましょう。
通常枠
対象 | 補助額 | 補助率 |
中小企業 | 100万円〜6,000万円 | 2/3 |
中堅企業 | 100万円〜8,000万円 | 1/2 |
一般的なのが通常枠になります。
対象としては先ほどの項目で引用した経済産業省の内容になります。
しかし、通常枠には「 卒業枠・グローバルV字回復枠 」という別の項目もあるので確認しておきましょう。
事業再構築補助金で「 最大1億円の補助金 」という文言をよく見かけますが、通常枠ではなく、卒業枠とグローバルV字回復枠の2つのことになります。
通常枠は「 最大6,000万円 」の補助を受けることが出来ますが、最小で100万円と幅が広く、より多くの企業向けということが分かります。
卒業枠
対象 | 補助額 | 補助率 |
中小企業 | 6,000万円〜1億円 | 2/3 |
卒業枠は400社限定になっており、事業計画の期間内に達成しなくてはならない項目があります。
・組織再編
・新規設備投資
・資本金または従業員を増やす
これらの条件を満たす必要があり、中小企業から中堅企業へ成長させたい事業者向けとなっています。
条件は通常枠よりも厳しくなりますが、補助の最大金額が6,000万円から1億円と大きくなっているのが特徴です。
グローバルV字回復枠
対象 | 補助額 | 補助率 |
中堅企業 | 8,000万円〜1億円 | 1/2 |
グローバルV字回復枠は100社限定になっており、中堅企業向けの補助金です。
通常枠とは条件が違っています。
・売上高の減少が15%以上
・付加価値額か従業員1人当たりの年率5.0%以上を増加させる事業計画書の策定
・グローバル展開を果たす事業
このように基本的な売上高の増加や補助事業終了後の付加価値額のパーセント増加があげられます。
こちらは補助金が8,000万円から1億円となっており、完全に中堅企業向けの補助内容になっています。
特別枠
従業員数 | 補助額 | 補助率 |
5人以下 | 100万円〜500万円 | 中小企業:3/4 中堅企業:2/3 |
6人〜20人 | 100万円〜1,000万円 | |
21人以上 | 100万円〜1,500万円 |
特別枠は緊急事態宣言で売り上げに影響が出た企業へ補助率を引き上げて行う事業再構築補助金になっています。
主に飲食店へ向けた内容になっているのが特徴でしょう。
緊急事態宣言で要請された時短営業や不要不急の外出を控えるといった内容で影響を受けた企業を対象としています。
・通常枠の申請条件を満たしている
・令和3年1月から3月いずれかの売り上げが前年、前々年の同月比30%以上減少
不採択になった場合でも通常枠で再審査があるため、事業再構築補助金が採択される可能性が高くなります。
関連記事:【完全ガイド】事業再構築補助金とは?
【飲食店の場合】事業再構築補助金の対象となる経費
実際に事業再構築補助金を申請する場合はどのような経費が対象となるのかを確認していきましょう。
主に飲食店が使う補助金は3つに分けることが出来ます。
店舗の改修費
例えば、店舗内での食事客が減ってしまった場合にドライブイン形式を導入したり、一部をテイクアウト用の場所にするなどの改修費が補助金に含まれます。
他にも実店舗での運営を辞め、デリバリーやテイクアウト、オンラインといった形態へ変革する場合の改修費などになります。
新型コロナが流行してからは店舗内で食事をする人は確実に減っているため、店舗の改修に補助金を利用するのは一番良い方法になるでしょう。
新規サービスの設備費
新型コロナの流行で従来の営業方法では売り上げが立たなくなった企業も多いでしょう。
よく耳にするのは「 デリバリー事業 」への参入です。
自社でデリバリーをする場合には新たな設備の導入が必要になることもあります。
デリバリー用の車両なども、その内の1つになるでしょう。
ECサイトの構築費・広告宣伝費
実店舗での運営が厳しくなり、サブスクリプションサービスの利用やECサイトを構築してインターネット上のみの販売に切り替えることも可能です。
また、インターネット上での広告も補助金を利用することが出来ます。
ECサイトの構築にかかる費用や、合わせて店舗の縮小改修費、広告費など、飲食店で柔軟に使える補助金制度と言えるでしょう。
飲食店が事業再構築補助金を使うメリット
本来であれば必要のなかった補助金ですが、現在では必要としている企業が多くなっています。
面倒な手続きもありますが、ここで紹介するメリットと比べてみてもらえれば自社に必要かどうか判断できるでしょう。
リスクの軽減
基本的に新規事業を始める場合にはリスクが伴います。
新しい設備の投資や人員の確保など、新しい事業がうまくいかなければ借金だけが残ってしまいます。
しかし、事業再構築補助金を使えば全額ではなくても一部を補うことが出来るため、リスクの軽減になるでしょう。
特に飲食店は新型コロナの影響を大きく受けている業種になるため、事業の変革は必要になっています。
事業再構築補助金を使うことで、今までには挑戦できなかった事業を始められる可能性もあるため、一番のメリットになっています。
補助率が高い【特別枠】
特別枠は補助額だけを見ると通常枠よりも低いですが、補助率に関しては通常枠よりも多くなっています。
中小企業であれば通常枠は2/3が3/4になり、中堅企業では1/2が2/3となります。
従業員数で補助額が変わりますが、最大で1,500万円と、ほとんどの企業では十分に事業の拡張や変革を行うことが出来るでしょう。
審査と採択の期間が早い【特別枠】
通常枠の審査は3ヶ月ほどと言われています。
しかし、特別枠に関しては通常枠よりも早い審査と採択が予定されており、1ヶ月ほどと予想されています。
特別枠に申し込んだ後でも通常枠への申し込みが可能になっているため、先に特別枠に申し込んでから通常枠に申し込むと良いでしょう。
飲食店の補助金活用・使用例
事業再構築補助金について解説してきましたが、具体的に自社でどういった事業に使えるのかが分かりにくいこともあると思います。
続いて飲食店での補助金の活用と使用例を解説していきます。
デリバリー事業への参入・切替
最も多くの飲食店に当てはまるのが、「 デリバリー事業への参入・切替 」になるでしょう。
飲食店が新型コロナの影響を大きく受けた原因の1つが「 時短要請・外出自粛 」です。
時短要請により、本来の大きな集客時間を逃し、外出自粛で飲食店に入る人自体が減ってしまいました。
最初の緊急事態宣言時に多くの飲食店が行った措置が「 デリバリー・テイクアウト 」です。
自社でデリバリーを完結する場合には車両も必要になりますが、デリバリーで使う車両も補助金の対象になっています。
また、デリバリーや宅配で新たに必要となる設備であれば補助金の申請が可能なため、飲食店に向いた補助金と言えるでしょう。
ECサイトの構築
デリバリーやテイクアウトなど、自社で発注できるECサイトを構築する飲食店が増えてきています。
今は飲食のサブスクリプションサービスも普及しているため、比較的簡単にデリバリーに参入することが出来ますが、自社で完結する場合にはECサイトが必要になるでしょう。
飲食店以外でも、コロナ渦を機にECサイトを構築し、顧客を増やす企業が出てきました。
事業再構築補助金はECサイトの構築などでも利用できるようになっています。
関連記事:「事業再構築補助金」の支給対象は?
事業再構築補助金を受け取るための要件
冒頭でも少し触れましたが、事業再構築補助金を受け取るための要件を詳しく解説していきます。
中小と中堅でも要件が違ってくるため、しっかりと確認しておきましょう。
中小企業の場合(個人事業主も含む)
基本的に申請条件は中小企業も中堅企業も変わりません。
しかし、申し込める枠に違いがあるため、理解しておく必要があります。
・通常枠
・卒業枠
・特別枠
中小企業が申し込める事業再構築補助金はこの3つです。
中小企業の定義は下記になりますので、自社が当てはまるのか確認しておきましょう。
出典:中小企業庁
中堅企業の場合
続いて中堅企業が申し込める事業再構築補助金を解説します。
・通常枠
・グローバルV字回復枠
・特別枠
この3つになります。
通常枠と特別枠は中小企業と変わらずに申し込むことが出来ます。
ただし、補助額と補助率は中小企業と異なるため、冒頭の「 事業再構築補助金の概要 」をご確認ください。
中堅企業の定義は少し曖昧になっている部分がありますが、「 常用雇用者数100人〜1,000人・資本金1億円〜10億円 」が基本とされていることが多くなっています。
売上高10%以上の減少
これは、事業再構築補助金の中でも基本とされている部分になります。
申請前の直近6ヶ月のうち3ヶ月分の売り上げ高が2019年、2020年1月〜3月の同じ3ヶ月間よりも10%以上減少していることが条件です。
3ヶ月分は継続している必要はありません。
企業側が任意で3ヶ月間を選ぶことが出来るため、「 1月・3月・5月 」といった選び方も可能になっています。
ただし、あくまで直近6ヶ月の中であることに注意しましょう。
事業計画書の作成
事業再構築補助金の申請には認定支援機関と共に事業計画を立てる必要があります。
認定支援機関は国が認定している公的な支援機関のことになります。
他にも、補助金額が3,000万円を超える場合には金融機関も参加して事業計画を立てる必要があるため注意しましょう。
基本的には「 認定支援機関確認書 」が申請時に必要となるため、金融機関でも発行が可能であれば金融機関のみでも問題はありません。
事業再構築補助金は補助額が大きいため、申請と審査は簡単ではないと予想されるため、顧問税理士や金融機関に相談しながら進めるのが良いでしょう。
事業再構築補助金の申請方法
事業再構築補助金の申請方法について解説していきます。
電子申請のみ
事業再構築補助金は電子申請のみとなっています。
jGrants(ジェイグランツ)という補助金の申請が出来る行政システムを使うことになります。
現在、jGrantsでの電子申請はあくまで予想にはなっていますが、新型コロナによる外出の自粛を考えると、ほぼ電子申請で間違いはないでしょう。
gBizIDプライムアカウントの申請が必要
jGrantsで申請する場合には「 gBizIDプライムアカウント(GビスID) 」を申請、取得しておく必要があります。
GビズIDは様々な行政の電子サービスで使えるアカウントになっています。
jGrantsも同様にGビズIDでログインする必要があるため、あらかじめ用意しておきましょう。
少し注意点ですが、GビズIDの発行には時間がかかります。
現在では、2週間から3週間ほどの時間がかかっているため、事業再構築補助金に申し込む予定がある場合には先にGビズIDの取得をおすすめします。
gBizIDプライムアカウント(GビスID)の登録に必要なもの
・メールアドレス(アカウントID)
・パソコン
・プリンター※印刷に使用するのみ
・印鑑証明書(個人事業主は印鑑登録証明書)
・スマートフォン・携帯電話※PHS不可
申請に必要なものは意外と多いので、前もって準備しておく必要があります。
プリンターは申請用紙を印刷するだけなので、PDFデータをUSBメモリーに移して、コンビニなどで印刷しても問題はありません。
【2021年3月】現時点での申請スケジュール
事業再構築補助金の申請は今月から始まる予定になっています。
ただし、今月に入ってからも予定は更新されていないため、少し遅れる可能性もあります。
また、事業再構築補助金の公募は令和3年度中に4回実施される予定になっているため、書類の準備が間に合わなかった場合でも焦る必要はありません。
まとめ
今回は「 飲食店の事業再構築補助金 」について解説していきました。
事業再構築補助金は今までの補助金の中でも補助額が多いことで注目を集めています。
特に2020年からは新型コロナウイルスの感染拡大により飲食店は大きなダメージを受け、事業の変革を余儀なくされています。
事業再構築補助金は事業の変革や新規事業の展開に使える補助金になっているため、新しいサービスを考えている場合には利用したい補助金と言えるでしょう。
申請できる条件は幅広く設定されているため、多くの飲食店で申請が可能になります。
事業再構築補助金の申請は2021年の3月から始まる予定になっているため、事前に必要書類などの準備を始めていきましょう。